社長のためのじょりじょりわかる!税理士ブログ

ややこしいことを、ややこしくなく

(戯曲の習作)借入金の返済は経費にならない、の巻

町田の税理士 高橋浩之 です。


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(戯曲の習作)借入金の返済は経費にならない

(場 所)居酒屋の個室
(登場人物)K:中小企業の社長
A:Kの親友。同じく中小企業を経営している。なにかにつけカン違いが多い。

◆ ◆ ◆

K:久しぶり。どうだい、調子は?
A:いやあ、相変わらずカン違いが多くてさ。この間も “未曾有” って書いてあるからさ、みぞうゆう、みぞうゆうって言ってたら、違いますよ、って。よくあるだろ、そういうカン違い。
K:いや、あまりないが。ところで、話ってなんだい?
A:・・・実は、(意を決したように)借入金返しちゃおうと思って。
K:なっ、何だって?
A:会社の借金の残り、まとめて返済しようかなって。
K:おいおい、どうしちゃたんだい? コツコツ返していくって約束したじゃん。約定どおり返済していくって。あの、銀行との約束はうそだったのか?
A:いや・・・
K:おれとも約束しただろ。ウチの借入金も同じころに返し終わる。一緒に完済で祝杯だぞって。すき焼き食おうぜって。おれとの約束もうそだったのか?

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A:いや・・・・・今期だいぶ利益が出そうなんだ。
K:なに⁉
A:つまりさ、借入金返済して、利益を圧縮しようってわけさ。おまえだって社長だ。わかるだろ、この気持ち。約束破ってわるいが、節税のためだ。まとめて返すよ、借金。
K:ぷっ、ハッハッハッ。こいつぁいい。

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A:何がおかしい⁉
K:おまえは、やっぱり、空前絶後のカン違い野郎だな。
A:なに⁉
K:借入金返済で利益圧縮なんて、前代未聞だぜ。おまえの会社、今期は黒字だよ。税金たっぷり納めてくれよ。なぜなら・・・

◆ ◆ ◆

借入金を返済すると、利益が減る。まれにこういうカン違いがあります。借入金の返済は、通帳の残高を減らしますから、そう思うのもある意味当然(?)。

でも、残念ながらそうではありません。いくら銀行へ借入金を返しても、利益はまったく減らないのです。利益を減らすのは、経費だけ。つまり、借入金の返済は、経費にならない。

もし、借入金の返済が経費になるとしたら・・・

● 借りたお金を使ったとき→経費になる→1回目
● 借りたお金を返したとき→経費になる→2回目

なんと、使ったときと返したとき、2回経費になってしまいます。お金を借りたときに、それを売上にするのなら、返したときに経費にするのもいいでしょう。でも、通帳に振り込まれた借入金を売上にする会社はありません(もちろん、会計的にも認められる処理ではありません)。

したがって、いくらお金を返しても──たとえそれによって通帳の残高がゼロになったとしても──利益は一銭たりとも減らないのです。
*ここでいう借入金の返済とは、元金のこと。元金以外の利息は、もちろん経費です。

◆ ◆ ◆

K:そうだったのか。
A:そういうわけだ。まぁゆっくり飲もうや。
K:う、うん。おっ、すき焼き来たかな・・・って、おい⁉ ひっくり返してるよ!
A:借入金だけに。おやおや、未曾有の大惨事だ、こりゃ。

■みぞう【未曾有】:有史以来、一度も起きたことのないような、まれなできごと。



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